2023年1月4日水曜日

西鶴ざんまい #37 浅沼璞


西鶴ざんまい #37
 
浅沼璞
 
 
 姫に四つ身の似よふ染衣    前句(裏十句目) 
茶を運ぶ人形の車はたらきて   付句
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)
 
【付句】雑。車=歯車。  参考〈本稿・番外篇5〉ウラハイ = 裏「週刊俳句」: ●西鶴ざんまい 番外編#5 浅沼璞 (hw02.blogspot.com)

【句意】茶を運ぶからくり人形の歯車がよく働いて。

【付け・転じ】前句の、正月小袖が似あう娘を、茶運び人形として取り成す。

【自註】是は、前の少女をからくり人形に付けなしける。江戸播磨・大坂の竹田、唐土人(もろこしびと)の智恵をつもりて、ぜんまいの車細工にして、茶台もたせておもふかたへさし向へしに、目口のうごき、足取りのはたらき、手をのべて腰をかゞむ、さながら人間のごとし。是をおもふに、古代の飛騨の工(たくみ)が靏(つる)を作りて、其身(そのみ)乗りて飛ばせしもまこと成べし。爰(ここ)は一句仕(つか)まつつたり、うつたり太鼓。

【意訳】これは前句の娘をからくり人形に取り成したのである。江戸の播磨掾(はりまのじょう)、その弟子・大坂の竹田近江掾は、唐人の知恵から工夫して、ゼンマイ仕掛の歯車細工で、人形に茶托を持たせて、思う方向に向わせると、目や口の動き、足取りもよく、手をのばし、腰をかがめ、さながら人間のようである。思えば、古い伝説の飛騨の匠が鶴を細工して、みずから乗って飛ばしたというのも本当だろう。ここは会心の一句、囃子太鼓でも打ち鳴らしたいほどだ。

【三工程】
姫に四つ身の似よふ染衣(前句)

からくりの人形として手をのべて  〔見込〕
  ↓
茶を運ぶ人形として手をのべて   〔趣向〕
    ↓
茶を運ぶ人形の車はたらきて    〔句作〕

前句を、からくり人形の姿とみて〔見込〕、〈どのようなからくり人形なのか〉と問いかけながら、茶運び人形と思い定め〔趣向〕、「茶運び人形の歯車がよく働く」という題材・表現を選んだ〔句作〕。

【若之氏メール】前句、句意からすると「四つ身の染衣」とつなぐのが自然かと思われますが、そうせずこの句形に落ち着いているのは、やはり四三を嫌ってのことでしょうか。
[注]四三(しさん)=短句下七が四/三で分かれる語調のこと。連歌以来の韻律的タブー。
 

「あいかわらず鋭いツッコミやな。大矢数はスピード勝負やったから、時に四三も口をついたけどな、ここはじっくり四三は避けてんねん」
 
そういえばこの百韻絵巻、ほとんどが三四調で、四三は皆無。数えたら二五や五二すら僅かですね。どーしてですか。
 
「そらな、季吟翁の『埋木』(1673年)にな、〈すべて三四をよきにさだめ、四三をあしきにさだめたり。二五と五二とハ其句によるべきにや〉ってあるねんで。知らんのかい」
 
あー、 でも季吟さんて貞徳門で、蕉翁の先生だった人ですよね?
 
「意外やろ(笑)。談林いうたかて『埋木』や『山之井』は必読書やったんやで」
 

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