2023年2月6日月曜日

●月曜日の一句〔山岸由佳〕相子智恵



相子智恵






うらみつらみつらつら椿柵の向う  山岸由佳

句集『丈夫な紙』(2022.12 素粒社)所収

面白い句だ。〈つらつら椿〉は、椿が連なって咲いている様子で、『万葉集』では〈巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を 坂門人足(巻一・五四)〉など〈つらつら〉のリズムが好まれて詠まれた。掲句の〈うらみつらみ〉もまた、この〈つらつら〉が引き出した遊び心なのだということが、平仮名の表記から分かる。また、「恨みつらみ」とは無縁な、さっぱりとした心境にあることも、〈柵の向う〉と隔てて見ている下五から分かるのである。

じっさい、本句集は穏やかな光を感じる句集で、「恨みつらみ」のような内面ではなくて、感覚の方が立っている句集なので、透明感と浮遊感がある。「うらみつらみ」と「つらつら椿」のような言葉のつながりとずらし方(「取り合わせ」とも「衝撃」ともどこか違う感覚)も特徴的だ。例えば春の句から少し引いてみよう。

  鳥雲に入る階段をたなびかせ

  春水の揺れゐし奥の歯に力

  覚めぎはのひかり白梅のひかりとも

  金色の川越ゆ受験生の頬

鳥雲と一緒にたなびく階段など、あるようでないような風景。その滲ませ具合が絶妙なのである。

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