2023年5月26日金曜日

●金曜日の川柳〔小林不浪人〕樋口由紀子



樋口由紀子






あきらめて歩けば月も歩きだし

小林不浪人 (こばやし・ふろうにん) 1892~1954

なんとなくわかる。こういうあきらめのかぶせ方をしたことがある。もちろん、月が歩きすわけはない。「あきらめ」は生きていくうえの大切な対処法で、それは月だってわかってくれている。だから、一緒に歩いてくれていると思いたかったのだ。

「あきらめて」と「月」はなんとも味のある取り合せである。それぞれの言葉は別種で、まったく異なる温度と世界を持っている。「あきらめ」のONのスイッチが入れるためには、都合のいい錯覚を作り出すには、「月」は好適役である。軽妙な韻律で温かみのある絵になった。『東奥文芸叢書川柳22 柳の芽』(2015年刊 東奥日報社)所収。

0 件のコメント:

コメントを投稿