2023年8月7日月曜日

●月曜日の一句〔山口昭男〕相子智恵



相子智恵






とくとくと犬の心臓村昼寝  山口昭男

句集『礫』(2023.6 ふらんす堂)所収

犬の心臓がトクトクと脈打っている。抱いているのか、腹を撫でているのか、手や体越しに鼓動が伝わっているのだろう。

ここで場面は〈村昼寝〉と大きく転じる。一村が皆昼寝をしているような静かな午後のひとときだ。農作業や漁業が主な生業の村ならば、皆がほぼ同じスケジュールで仕事をするだろうから、この〈村昼寝〉の大づかみな把握もよくわかる。ここまで読んで、犬も寝ているのかもしれないなと思った。そうすると、作者もまた犬のそばで横になっているのかもしれない。

犬の心臓の音という小さい世界から、〈村昼寝〉という思いがけない大きな下五への展開。その下五によって、例えば犬の種類や描かれない人々の様子までが想像され、場面がきっちり再設定されてくる見事さ。展開が鮮やかな一句である。

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