西原天気
※樋口由紀子さんオヤスミにつき代打。
音程を外して止まる救急車 青砥和子
近くに救急車がやってきて、停車するのを見たり聞いたりしたことはあるが、サイレンがどのように止むのか、記憶がない。というか、一度も意識したことがない。
ぴーぽーぴーぽー、なのか、うーうー、なのか、いずれにせよサイレンには音程があって、停車のときには、そこから外れるのだろうけれど(きっと下がる)、それを意識したことはなかった。
聞いている/経験しているはずなのに、聞いていない/経験していないものが、こうして書かれていることは、大げさにいえば、世界の要素の新しい提示である。これは、「そうそう、音程、外れるよね」といった「共感」よりも、きっと意義深い。
救急車の出動は、シリアスな事態なのだろうけれど、こうしてシリアスな文脈から外れていくのも、川柳、さらには俳句の在り方だと思う。
掲句は青砥和子川柳句集『雲に乗る』(2023年11月20日/新葉館出版)より。
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