2024年1月24日水曜日

西鶴ざんまい #54 浅沼璞


西鶴ざんまい #54
 
浅沼璞
 
 
 鴫にかぎらずないが旅宿   打越
肩ひねる座頭成りとも月淋し  前句 
 太夫買ふ身に産れ替らん   付句(通算36句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
 
【付句】二ノ折、表14句目(折端)。恋(雑)。太夫=たいふ。上方遊郭の最上位の遊女。
 
【句意】太夫を買える身分に産れ替りたい。

【付け・転じ】打越・前句=つれづれを嘆く旅人の心情を詠んだ其人の付。前句・付句=旅人の心情を幇間のものに取成した転じ。

【自註】爰(ここ)は色里の太鼓持の身の上にして付よせける。大じん、乱れ酒の座敷は、をかし中間のお機嫌取ども、かる口に大笑ひ、うき世の事ども爰にわすれしに、夜もふけぬれば、太夫さまの御*床入とて引船(ひきふね)女郎・太鼓女郎・宿屋のかゝをはじめとして、お客ひとりに十五人も手に入て、もむごとく脇から帯をとくやら、足袋をぬがせますやら、三つぶとんに身を沈めて、房枕(ふさまくら)に太夫が髪をみださせ、「おまへの事なら、神ぞ、命成とも」と気に入れる事を聞けば、「さてさて何の因果の我身や。禿(かむろ)・座頭をあいてどりにしても、夏の夜さへ長う覚へ、まもり給へ、むすぶの神、二たび出生せば、太夫にあふ身になりぬべし」と観念の眼をふさぎ、そこへごろりとふしけるは、まことにいたはしや。
*とこいり=ベッドイン。

【意訳】ここは遊郭の幇間の身に取り成して付けたのである。大金持ちの無礼講の宴席では、幇間仲間のご機嫌取りどもが冗談で大笑い、うき世のことなどこの場で忘れ(させ)た上に、夜も更ければ、太夫様のお床入りとて太夫付きの遊女・宴会担当の遊女・揚屋の女将を始めとして、一人のお客に十五人も寄ってたかって接待し、帯をときますやら、足袋を脱がせますやら、(お客は)三枚重ねの敷布団に体を沈めて、房付き枕に太夫の髪を乱れさせ、「あなたの事は、神に誓って、命をかけても」と(太夫がお客の)気をひく睦言を聞くと、「さてもさても何の因果で我は幇間の身となったのであろう。見習い遊女や座頭を相手にして、夏の短夜ですら(次の間での寝ずの番は)長く思われ……、どうかお救い下され、ふたたび生をうけるならば、太夫に逢える身分になりたく……」と諦めの目をふさぎ、その場でごろりと不貞寝をしたのは、本当に気の毒だ。

【三工程】
(前句)肩ひねる座頭成りとも月淋し
 
 太鼓持とは何の因果か  〔見込〕
    ↓
 禿相手に大尽を待ち   〔趣向〕
    ↓
 太夫買ふ身に産れ替らん 〔句作〕

前句の心情を幇間のものと取成し〔見込〕、どんな境遇かと問いながら、遊郭での一夜に思いをよせ〔趣向〕、その願望を句に仕立てた〔句作〕。


鶴翁はもともと「太夫買ふ身」の商人でしたよね。
 
「そやで、女房がのうなってからの俳諧師や。家業は手代に譲ったんや」
 
後悔はありませんか。

「ハイカイ師にコウカイなし、そのカイあっての宗匠や(笑)」

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