相子智恵
雪となる夜景の奥の雪の山 浅川芳直
句集『夜景の奥』(2023.12 東京四季出版)所収
街の灯りが瞬き、そこに雪がちらちらと降ってきて、瞬きが一層にぎやかに感じられてくる。そして夜景の背後には、街を囲むように雪山が静かに座している。雪がなければ夜空よりも暗いはずの山が、白くふうわりと明るい。沈静しているような、浮き立つような、不思議な叙情のある光景だ。
初雪のこぼれくる夜の広さかな
という句もあって、この雪の句も好きだ。初雪に気づいて見上げた夜空。まだ続く雪は少なく、雪雲もそれほど広がってはいないのかもしれない。空の広さではなくて、〈夜の広さ〉としたことで、瞬間を切り取った景の中に、時間的な広がりも感じられてくるし、吸い込まれそうにもなる。
カフェオレの皺さつと混ぜ雪くるか
去年の雪ざつとこぼして神樹あり
他にも佳句の多い句集だが、今の季節に読んだからか、雪の佳句が特に心に残った。
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