2024年2月26日月曜日

●月曜日の一句〔岩淵喜代子〕相子智恵



相子智恵






まんさくの一樹に花のゆきわたる  岩淵喜代子

句集『末枯れの賑ひ』(2023.12 ふらんす堂)所収

金縷梅(まんさく)は、他の草木が芽吹く前に、縮れた紐のような黄色い花を咲かせる。金縷梅の名は、春の訪れをいち早く告げる花であることから「まず咲く」が転じたとも、花の形が稲穂を思わせることから、「豊年満作」に由来するともいわれる。金縷梅という花の本意には、このような「予祝」の意味合いがたっぷり含まれているといえるだろう。

掲句、〈一樹に花のゆきわたる〉が、葉の出る前に花が出揃う金縷梅のさまを写生した句として魅力的だ。しかしそれだけではない。花自体に「予祝」の意味が大きい金縷梅のことを思えば、〈ゆきわたる〉の一言に季語の本意が広々と活かされており、神々しさまで感じられてくるのである。

 

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