2024年3月20日水曜日

西鶴ざんまい 番外篇20 浅沼璞



西鶴ざんまい 番外篇20
 
浅沼璞
 
 
水木しげるの妖怪「百鬼夜行展」(1/20~3/10 横浜そごう美術館)を観てきました。水木さんの生誕100周年記念として、2022年に東京シティビューで行われた企画(監修・小松和彦氏)の巡回展で、昨年は名古屋展があり、今夏は札幌展も予定されているようです。

 
本展の見どころは、図録冒頭に書かれているように、妖怪画制作の具体的手法にスポットを当てた点です。展示では三つのパートが用意されていました。

1.絵師達から継承〈鳥山石燕(せきえん)・与謝蕪村など〉
 
2.様々な資料から創作〈仮面・根付・祭礼装束など〉
 
3.文字情報から創作〈柳田國男・井上円了など〉
 
1の代表が「あかなめ」「ぬらりひょん」、2の代表が「砂かけ婆」「児啼爺」、3の代表が「座敷童子」「一反木綿」などで、それぞれのルーツの展示は押しなべて興味深いものでした(1.2は現物展示、3は引用文のパネル展示)。

 
わけても鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776年)に、水木さんは大きな衝撃を受けたそうです。石燕といえば喜多川歌麿の師匠で、西鶴より一世紀ほど後の画家ですが、『西鶴諸国ばなし』(1685年)に伝わる姥が火(うばがび)なども『画図百鬼夜行』には描かれています。
 
かつて先師・廣末保氏は『西鶴諸国ばなし』に「伝承の創造的回復」をみました(『悪場所の発想』1970年)。それはそのまま水木さんの妖怪漫画にも言えるのではないか、今回の展示を観てそう思いました。

 
さて枚岡神社(東大阪市)の灯明の油を盗んだ老婆が、死後に神罰をうけ、怪火となったという「姥が火」伝説。西鶴と同時代の俳諧師・中林素玄(そげん)も独吟連句で詠んでおり、江戸前期には広く知られた妖怪だったことがわかります。

 へる油火(あぶらび)も消ゆる秋風   素玄*(前句)
ひら岡へ来る姥玉(うばたま)のよるの月 仝(付句)
『大坂独吟集』(1675年)
ご覧のように前句の原因を「姥が火」伝説によって説明した典型的な逆付(ぎゃくづけ)。枕詞「烏羽玉の」に姥(うば)をかけた談林俳諧です。
 

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