2024年3月8日金曜日

●金曜日の川柳〔梅村暦郎〕樋口由紀子



樋口由紀子





春にて候 子の追いすがる紙風船

梅村暦郎(うめむら・れきろう)1933~

ぽかぽかとした陽気の春の公園で、子どもが紙風船を追いかけているのだろう。「春にて候」はまるで時代劇のセリフのようで、川柳ではめったにおめにかからない。「にて」は時候をあらためて指し、「候(そうろう)」は「ある」の丁寧語で、「春でございます」となる。

丁寧に設えた季節の景を一風変わった雰囲気にするのが「追いすがる」の動詞である。確かにそう見えなくもないが、その姿よりも精神の方に重心が移り、ただならぬ気配をまとう。言葉の使い方や選び方次第で様々な面を見せることができる。『花火』(1993年刊)所収。

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