竹岡一郎 敬虔の鎧 42句
建国日山雨に燃ゆる眼はをろち
父たちの離ればなれに征く焼野
天譴偽り黙契照らし野火は里へ
憑依の誤差とは薔薇の芽か童貞か
咲ひ閉ぢバレンタインの日の鋏
白魚の煮え閨怨を煽るらし
殴打の継承断つに霞の心身を
母たちは崖に泣き合ふ凧は沖
娘遍路の眺め殺すは自瀆漢
涅槃絵に骨とどめ置く外道かな
渦潮の巫山雲雨のうなさかへ
水憑く白さ雛の夜の仰臥とは
銀鉱の露頭に蒔きて毛深き種
囀りの昏きに母ら喰らひ合ふ
打ち揚がる手が摑みをり流し雛
春眠のたび霊となり月の裏へ
わらび湧くひそかな殉死さらすべく
貝のうち裂ける莟や卒業式
心中ごつこ蝶のつがひの出づるまで
雪のはて笛臥すのみの柩担ぐ
蘖を総身に生やし不死の志士
心拍を凧の糸から天へ拡ぐ
春を似て鏡のシケとわが鏡像
己が尾を欲り花衣まくるのか
電子にも香を聴く霊の春愁
花吐けり翼重くてならずもの
春の瀧無念の巨き顔降りつぐ
落人の杓文字鳴らすが花ざかり
鳥の巣の要とならむ透る髪
夢の老ゆるに耐へず落花は顔覆ふ
遍路ふたり蛹どろりと曳き摺つて
百千鳥忘られし忌が森に染む
頂点に蝶あまた噴く観覧車
花守の悔悟に猛る篝百
譜の孔うごめく招魂祭の自鳴琴
隕石は礫と散りて花うながす
雲雀野を火の粉散るごと逃げよ追ふよ
乳房へと海胆もどかしく匍匐せり
心音を海女に褒められ覚めやらぬ
土蜘蛛の網いちめんの桜の香
鉄鉢へ降り積む花の阿鼻を聴け
敬虔の鎧を組み直す遍路