樋口由紀子
ただ一つ似てくれたのは親不孝
藤田晉一(ふじた・しんいち)1957~
「ただ一つ」といきなり特別感を出してくる。次に「似てくれたのは」と好奇心をくすぐり、それは一体なになのかと読み手の興味をぐっと引っ張る。そして、最後に「親不孝」とすとんと落とす。川柳の見本のような一句である。
「てくれた」はそれによって恩恵や利益を受けることだが、大阪弁でよく使う。嘆きたいこともぼやきたいことも悔やむことも言い訳したいことも、くどくど言いたいことは山ほどある。しかし、それらはすべて胸の内にしまって、「そうそう、うちも」という共感を引き出して、潔く退場する。「よみうり柳壇」(2024年刊)収録。
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