相子智恵
パイプ椅子耀く下に蝶死せり 中村和弘
句集『荊棘』(2024.11 ふらんす堂)所収
〈耀く〉とあるので、一脚というよりは複数のパイプ椅子の脚が重ねられているところを想像した。体育館の倉庫などにパイプ椅子が畳まれ、重ねられているような場面だ。高い窓から差し込む光。輝く椅子。その下には死んだ蝶。蝶はパイプ椅子を片づける時に圧されて死んだのか、それともパイプ椅子の陰に紛れ込んで、その命を終えたのかもしれない。
蝶を美しい季語、耀くものとして描くのではなく、美しいのは人工物のパイプ椅子が跳ね返す光であって、蝶は無残にも死んでいる。羽も粉々になっているかもしれない。その対比が何とも切なくぞっとする。
『荊棘』は、生物の生死が濃く描かれた句集だ。特に魚類の句が多いように思った。そのどれもが力強く、悲しい。
ごみ鯰濡らしておけば生きておる
鱶吊られどどと夏潮垂らしけり
海底に白き蟹群れ良夜かな
人間もまた、生物として。
人間の影こそ荊棘夜の秋
大寒のモダンバレエの肋かな
汚さ、寒々しさ、悲しみを、まっすぐに描き切る。
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