相子智恵
金魚田の隅の波立つ夜明けかな 涼野海音
句集『虹』(2025.1 ふらんす堂)所収
印象鮮やかな句である。金魚田は、金魚の養殖に使われる池や田だが、現在のそれは、専用の養殖池であろう。
金魚も夜は静かに休息する。まぶたはないが、眠っているのである。掲句からは、隅の方に固まって休んでいたことが想像されてくる。そんな金魚たちは、夏の早い夜明けに起きだし、金魚田は隅の方から静かに波立ってくるのだ。
〈隅の波立つ〉の描写が、金魚の集まる習性をよく捉えていて見事である。そして、金魚の赤色(赤い金魚が想像される)と、夏の夜明けの茜色の対比が想像されてきて、繊細な美しい色の情景が、まぶたの裏に静かに浮かんでくるのである。
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