相子智恵
炎暑のフェス推しの登場まで五秒 竹岡佐緒理
句集『帰る場所』(2025.1 ふらんす堂)所収
〈フェス〉〈推し〉など、現代の風景や俗語を大胆に俳句に取り入れた、ライブ感のある一句だ。
夏の、野外の音楽フェスであろう。“推し”(現代の俗語で、人にすすめたいほど気に入っている人や物のこと)のアーティスト(歌手)が登場する前に、観客たちを巻き込み、5秒間のカウントダウンが始まる。「5、4、3、2、1」と会場が一体となって叫び、ボルテージは一気に高まり、その瞬間に推しのアーティストが歌いながら登場するのだ。耳をつんざくような音楽と、舞台の映像演出もきっと華やかであろう。
〈炎暑〉という季語はその厳しさから、〈つよき火を炊きて炎暑の道なほす 桂信子〉といった過酷な労働や、〈下北の首のあたりの炎暑かな 佐藤鬼房〉〈馬を見よ炎暑の馬の影を見よ 柿本多映〉など、どちらかというとやや内省的な暗さをもつイメージで使われることが多いように思う。
掲句は観客の熱気と〈炎暑〉が重なり、明るく健康的なパワーがみなぎっている。ワクワクする炎暑の句というのもめずらしい。
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