歳時記いろいろ ● 猫髭
歳時記や季寄せはそれぞれ特色があって、読物としても面白いので(『角川俳句大歳時記』だけは見識の無い解説と例句が散見するので、薦められない)、江戸時代のものから最新のものまで取り揃えている。三島ゆかりさんが馬鹿なら、わたくしなどは七回生れ変わっても大馬鹿野郎だろう。
古典は、曲亭馬琴編藍亭青藍補『増補俳諧歳時記栞草』(上下、岩波文庫)が俳諧季寄せの最高峰という評価通りで、これに松井重頼撰『毛吹草』(岩波文庫。回文俳句などの事例も豊富)を揃えておけば、古俳諧の手引きには十分だろう。さらに和綴の鳥飼洞斎編『詩歌連俳季寄註解改正月令博物筌』(全四冊、交盛館蔵版)があれば、古句により親しめる。
現代歳時記では、一番解説と例句のバランスがいいのが、山本健吉編『最新俳句歳時記』(全五巻、文藝春秋)と『季寄せ』(上下、文藝春秋)。「青時雨」という美しい季題の発見も後世への良き賜と言えるだろう。
『ホトトギス雑詠選集』の骨太の秀句が並び、月別なので使いやすい虚子編『新歳時記』(三省堂、革装がお薦め)。
季題の由来と勘所だけに解説を絞り込み、例句も一句のみという潔さが売りの平井照敏編『季寄せ』(NHK出版。この編集には境野大波と石田郷子が心血を注いで協力している)。
解説者が豪華絢爛でほれぼれする『カラー図説日本大歳時記』(講談社、机上版がお薦め)。
これまたカラー図版が美しい『カラー版新日本大歳時記』(講談社、全五巻)。
いろいろな詩的季語に出会える、写真も美しい高橋順子編『まほろば歳時記』(小学館。「雨の名前」「風の名前」「花の名前」)。
成美堂出版の『俳句の花図鑑』、『俳句の鳥・虫図鑑』、柏書房の『俳句の魚菜図鑑』も便利。
辞典では齋藤慎爾・阿久根末忠編『必携季語秀句用字用例辞典』が夏目雅子の俳句まで載っていて周到。
領袖版なのに傍題の多さに驚く『新版季寄せ』(角川学芸出版)。
また、初めて若者が持ち歩いても爺婆むさく見られない小洒落た装丁と例句が瑞々しい『俳句歳時記第四版』(全五冊、角川文庫)。
しかし、何と言っても、面白さでは『改訂増補富安風生編歳時記』(東京美術)が群を抜いている。
何が面白いかというと、風生老人の愚痴というかぼやきが落語を聞いているようで面白いの何の、また出た!とぼやきが出るたびに小躍りしてしまうほどだ。
例えば、「新年」を開いて読んでいると「初凪」が出て来る。
【初凪の「凪」という名詞に「す」という語尾をつけて、動詞化した例も見かけるが、好もしくない。戦時中、時の文相が「科学する」と言った、ふつつかな造語をしたために、「風花す」とか「俳句する」などと言う奇怪な語が生れたのは、慨嘆にたえない。また初凪の「凪」を動詞に使った「初凪げる」の類も、日本語の虐待で、面白くない。】
…といった調子である。
また、例句も独特の若々しさで選ばれており、
性格が八百屋お七でシクラメン 京極杞陽
蝿とんで来るや箪笥の角よけて 京極杞陽
を読んで、わたくしは一発で杞陽のファンになってしまった。
勿論、風生も
白桃をよよとすすれば山青き 富安風生
狐火を信じ男を信ぜざる 富安風生
といった破顔一笑するような句を詠んでいる。
実に飄々とした歳時記である。
『改訂増補富安風生編歳時記』
勉強します(^^);
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