洞窟探検にでかけることになった。
千葉の団地から「東京」へ引っ越すことが決まった時、友人たちは「東京の学校って勉強とかもスゴイし、いじわるだってされるかもよ」と口々に言ってくれたが、私が編入した小学校は天文台の山を越えて通わねばならぬ、まわりにちらほら住宅があるとはいえ、どうみても「山の分校」のようなところだった。
通学路は湧水を利用したワサビ田や、「かかわってはいけないひとたち」が住んでいるらしいオンボロアパート、夕方見ると今にも飛び立ちそうな気がした、ヘンテコリンな形の観測器のようなものが突っ立っていたりしていて、なかなかにスリリングだった。
いきさつは覚えていない。崖にいくつも穴があいているのは知っていた。そこへ「探検」にでかけることになったのだ。
オンボロアパートの裏手から上り、意外に近かったそのほら穴は、想像していたのと違って恐くもなく「焚き火」をした跡や吸い殻が散らかっていたりして、いっぱしの探検隊気分だった我々をがっかりさせた。
持って来たお菓子を食べたりしてしばらく遊んでいたが、大分陽が傾いたころになって「もっと奥へ行ってみようぜ」という声が上がった。このままじゃせっかくの「探検」がただの「遠足」になってしまうのを、全員が感じていたからだろう。
あらためて奥へと目を向けたら、そこには昼間見ていたものとはまったく違う、漆黒の闇の口が広がっていた。
どこをどう通って帰ってきたかまるで覚えていない。ただただ、濡れて汚れてしまったズロースを家族に知られずにどう始末しようかと、そのことばかりを狂おしく思いながら、住宅地に入ってからも一心不乱に走った。
何とかたどりつき、家の扉を開けたとたん、「ひゃつひゃつひゃつひゃつひゃつ」と円鏡の笑い声が響きわたった。『お笑い頭の体操』が始まっていたのだ。
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月の家円鏡 (現・橘家圓蔵)
お笑い頭の体操 →Wikipedia
さいばら天気人名句集『チャーリーさん』(2005年)より転載
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