大本義幸句集『硝子器に春の影みち』を読む〔 4 〕
野口 裕
州をあらう風よモンゴロイドの青痣よ
第四章「冬至物語」より。州はしばしば埋没する。風程度では埋没もしないだろうが、洗われれば、埋没の予感が漂う。州は中央にありながら、辺境。生まれ出た新生児にも辺境の印のように蒙古斑が見える。
この章、取るのをためらうような句も多い。たとえば、
一夏〈どすこい〉狂って水晶
一夏〈どすこい〉乳房は鉄路
一夏〈どすこい〉情事と天体
一夏〈どすこい〉ゆくぜ寛章
というような句。時にこの作家の音感にはついていけない。
(つづく)
〔参照〕 高山れおな 少年はいつもそう 大本義幸句集『硝子器に春の影みち』を読む ―俳句空間―豈weekly 第11号
〔Amazon〕 『硝子器に春の影みち』
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野口さん 調子がもどってきたようですね。
返信削除一安心。
「この章、取るのをためらうような句も多い。たとえば、
一夏〈どすこい〉狂って水晶
一夏〈どすこい〉乳房は鉄路
一夏〈どすこい〉情事と天体
一夏〈どすこい〉ゆくぜ寛章 」義幸
句も正直なら、感想も正直。思わず微笑。
「34,43」575定型ではなくて77定型のバリエーションですね。小池正博さんの十四字詩とは、なるほどちがいますけど。大本氏には、こういうバーバリズムの時代があったのです。「おおもっちゃん」らしい、身体感覚に溢れるリズムやありませんか?
初出は調べていませんが、「黄金海岸」、「日時計」、「現代俳句」の初期頃でしょう。
この
一夏〈どすこい〉ゆくぜ寛章 」義幸
というのは、当時渦の赤尾兜子の元で編集長をしていた、中谷寛章のことだ、と確信します。中谷寛章、この方夭逝し伝説の人です。
赤城さかえ、金子兜太、に続いて、中谷寛章が長命であったなら、社会性俳句論議はもうすこし様相が違っていたかも知れません・・と京大俳句会(戦後)のVIPの某氏がいっておられました。
大本さんは、現在、端正な俳句をキチンと書く方にいっているので、私はむしろおどろいているくらいです。ともかく、いろんな方によって「大本義幸」遠い存在が明らかになりますよう、快進撃を期待しています。
>「おおもっちゃん」らしい、身体感覚に溢れるリズムやありませんか?
返信削除う~ん。気持ち悪いリズム、としか言えません。
>大本さんは、現在、端正な俳句をキチンと書く方にいっているので、私はむしろおどろいているくらいです。
ありふれた回帰現象でなければよいのですが。
身体感覚なのかどうかはわまりませんが、おもしろいリズムと思いました。
返信削除〈どすこい〉は〈 〉付きだから、合いの手のように別の声がかかる(野太いユニゾンで)ってな感じ。
>合いの手のように別の声がかかる(野太いユニゾンで)ってな感じ。
返信削除隠し味が、ギリシャ悲劇のコロスと、「一本刀土俵入」というわけか。しかし、気持ち悪い。悪寒の走るこの感覚はなんなんだろう。まさか、風邪のせいではないだろうが。
まさか、風邪のせいではないだろうが。
返信削除↓
だろうか?
「感覚」だ、といわれると、違うでしょう、とは言いにくいけど・・・。
《土俗》な感じ、受けつけないときは受けつけませんよね。風邪でなくても。
返信削除詩歌の特定分野では、《土俗》、あるいは(別の脈絡かもしれませんが)アニミズムがキーワードになったりするようですが、私にもときどき拒否感が出ます。
月が出た出た~♪ 月が出た(7+5)ヨイヨイ
そう言えば、
返信削除水枕ガバリと寒い海がある(三鬼)
オノマトペが陳腐だという理由で、澁澤龍彦は否定的な見解でしたね。私自身もその見解にちょっと影響されています。