2008年11月18日火曜日

●大本義幸句集『硝子器に春の影みち』を読む〔 4 〕野口 裕

大本義幸句集『硝子器に春の影みち』を読む〔 4 〕

野口 裕



州をあらう風よモンゴロイドの青痣よ

第四章「冬至物語」より。州はしばしば埋没する。風程度では埋没もしないだろうが、洗われれば、埋没の予感が漂う。州は中央にありながら、辺境。生まれ出た新生児にも辺境の印のように蒙古斑が見える。

この章、取るのをためらうような句も多い。たとえば、

   一夏〈どすこい〉狂って水晶
   一夏〈どすこい〉乳房は鉄路
   一夏〈どすこい〉情事と天体
   一夏〈どすこい〉ゆくぜ寛章

というような句。時にこの作家の音感にはついていけない。


(つづく)


〔参照〕 高山れおな 少年はいつもそう 大本義幸句集『硝子器に春の影みち』を読む ―俳句空間―豈weekly 第11号
〔Amazon〕 『硝子器に春の影みち』

7 件のコメント:

  1. 野口さん 調子がもどってきたようですね。
    一安心。

    「この章、取るのをためらうような句も多い。たとえば、

       一夏〈どすこい〉狂って水晶
       一夏〈どすこい〉乳房は鉄路
       一夏〈どすこい〉情事と天体
       一夏〈どすこい〉ゆくぜ寛章 」義幸

    句も正直なら、感想も正直。思わず微笑。

    「34,43」575定型ではなくて77定型のバリエーションですね。小池正博さんの十四字詩とは、なるほどちがいますけど。大本氏には、こういうバーバリズムの時代があったのです。「おおもっちゃん」らしい、身体感覚に溢れるリズムやありませんか?
    初出は調べていませんが、「黄金海岸」、「日時計」、「現代俳句」の初期頃でしょう。
     この
     一夏〈どすこい〉ゆくぜ寛章 」義幸

     というのは、当時渦の赤尾兜子の元で編集長をしていた、中谷寛章のことだ、と確信します。中谷寛章、この方夭逝し伝説の人です。
    赤城さかえ、金子兜太、に続いて、中谷寛章が長命であったなら、社会性俳句論議はもうすこし様相が違っていたかも知れません・・と京大俳句会(戦後)のVIPの某氏がいっておられました。

    大本さんは、現在、端正な俳句をキチンと書く方にいっているので、私はむしろおどろいているくらいです。ともかく、いろんな方によって「大本義幸」遠い存在が明らかになりますよう、快進撃を期待しています。

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  2. >「おおもっちゃん」らしい、身体感覚に溢れるリズムやありませんか?

    う~ん。気持ち悪いリズム、としか言えません。

    >大本さんは、現在、端正な俳句をキチンと書く方にいっているので、私はむしろおどろいているくらいです。

    ありふれた回帰現象でなければよいのですが。

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  3. 身体感覚なのかどうかはわまりませんが、おもしろいリズムと思いました。

    〈どすこい〉は〈 〉付きだから、合いの手のように別の声がかかる(野太いユニゾンで)ってな感じ。

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  4. >合いの手のように別の声がかかる(野太いユニゾンで)ってな感じ。

     隠し味が、ギリシャ悲劇のコロスと、「一本刀土俵入」というわけか。しかし、気持ち悪い。悪寒の走るこの感覚はなんなんだろう。まさか、風邪のせいではないだろうが。

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  5. まさか、風邪のせいではないだろうが。
                  ↓
                 だろうか? 

    「感覚」だ、といわれると、違うでしょう、とは言いにくいけど・・・。
        

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  6. 《土俗》な感じ、受けつけないときは受けつけませんよね。風邪でなくても。

    詩歌の特定分野では、《土俗》、あるいは(別の脈絡かもしれませんが)アニミズムがキーワードになったりするようですが、私にもときどき拒否感が出ます。

    月が出た出た~♪ 月が出た(7+5)ヨイヨイ

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  7. そう言えば、

    水枕ガバリと寒い海がある(三鬼)

    オノマトペが陳腐だという理由で、澁澤龍彦は否定的な見解でしたね。私自身もその見解にちょっと影響されています。

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