2008年11月27日木曜日

●鴇田智哉の俳句入門 さいばら天気


鴇田智哉の俳句入門

さいばら天気







鴇田智哉という俳人(俳句作家)と入門書とは、アタマのなかで遠く離れたところに在ったので、雑誌の広告で『60歳からの楽しい俳句入門』のことを知ったときは、いささかびっくりした。けれども世の中は予想できないことだらけなのだ。

2008年7月25日初版発行だから旧聞に属することを扱うことになる。御容赦。刊行は俳句世間で広く知られるところなのだろうか。

さて、220ページほどのこの本、情報量は少ない。ページ数から思うよりも少ない。すぐ読める。これは美点。だいたいにして情報量の多いノウハウ本なんて、それだけでダメということ。少ない情報量のなかで押さえるところは押さえてあり、また薄く広く項目をカバーしている。例句が良く、説明もわかりやすい。この本で俳句に出会う人は幸せだろう。

ただし、鴇田智哉という作家のことばを読みたくて買った人はすこし拍子抜けするかもしれない。この作家らしさを感じる記述はそれほど多くない。コクのある箇所はあまりない。

例えば週刊俳句に転載された「俳句とは何だろう」の、沈思、迷い、とまどいを垣間見せながら核心のまわりをゆっくりと経巡るようなアプローチ・文体からは遠い。

そもそもノウハウ本は、ページをめくっても「読んだ」ことにはならない。読書体験をもたらすものではない。チラシを見るように1冊すっと飲み込めるのがノウハウ書の理想だ。著者はそれをわかっているのだろう。知りたい人に知らしめる、という冷静な姿勢を堅持するかのようにあっさりと、基本知識を説明し尽くす。それでも、私程度の俳句愛好者には「なるほど」と感心する有益な箇所がいくつもある。
「見える(聞こえる)ものだけを詠む」という方法は(…)有効にはたらきます。ちなみにこの方法は、俳句の歴史の中では、「写生」という言葉で呼ばれることもあります。
このあと「見えた(聞こえた)気がしたものを詠む」という項目を設けて補足してあるので、「見える(聞こえる)」を狭義で捉えるわけではない。「ひるがほに電流かよひゐはせぬか」(三橋鷹女)も、この方法の範囲となる。

見えない(聞こえない)ものを詠むな……。なるほど。

このほかにも、有益なノウハウ情報は随所にころがっているのだが、ひとつ、ううむと唸ってしまうほど良かったところがある。導入の「さあ、俳句の中へ」の部分だ。ここで著者は、3つの例句をもって俳句の世界、俳句の愉しさを語る。この3句のセレクトが絶妙。どんな3句か、ここで書くのは商売の邪魔になる。興味を持たれた方はお買い求めを。


〔amazon〕 『60歳からの楽しい俳句入門』

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