シネマのへそ04
インランド・エンパイア (デイビッド・リンチ監督2006年)
村田 篠
自分の中でつじつまが合わないまま見終わってしまっても、差し支えない映画。「どうして?」と考えなくてもすむものとして、観客を巻き込んでしまう映画。
こんなふうに、「デイビッド・リンチを一言で言う」という無謀を冒してしまいたくなるのは、リンチの映画自身のせいである。
リンチの映画とよく似たものに、「夢」がある。抱いて上京したりする夢ではなく、布団の中でみる夢の方。夢をよくみるタイプの観客は、リンチの映画をわりにすんなり受け入れられるのではないかと思う。ただし、リンチのそれはたいがい「悪夢」なので、そこはご用心。
この映画も例にもれない。ある女優のプライベートと、その女優が出演する映画のストーリー、そこに、その映画が実はリメイクで、未完成のまま放置されているという元の映画のストーリーと、テレビ画面をみて泣く女の話が交錯して、どこまでがどの話に属するのか、もう、途中からどうでもよくなってくる。そこでそのまま身を任せられなければ、アウトなのだろう。私は大丈夫なクチなので、今に至るまで、リンチのファンでありつづけている。
しかし、そんな映画を受け入れられる、ということと、そんな映画をつくってしまう、ということの間には、暗くて深い川がある。つくる人の頭の中は、じつは幻想というものに対して非常に強靱にできているのではないだろうか、などと、ふと思う。
リンチ映画のミューズと言っていい主役のローラ・ダーンをはじめ、ジェレミー・アイアンズ、ハリー・ディーン・スタントン、ジュリア・オーモンドと、出演者も一筋縄ではいかない「顔」の持ち主ばかり。
悪夢度 ★★★★★
こんがらがり度 ★★★★★
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