2009年4月12日日曜日

●中嶋憲武 ぎゅうひ

〔中嶋憲武まつり・初日〕
ぎゅうひ

中嶋憲武


友人と散歩する。

吉祥寺駅の南口で待ち合わせしたのだが、桜も真っ盛りで花見のひとでごった返している。ちょうど昼どきであり、ひもじい思いをしていたので、どこかで食べようかという話になり、店を物色したがどこも満員だった。友人がセンスのない店なら空いてるよというので、センスのない店を探した。商店街のはずれにぽつんと一軒、申し合わせたようにセンスのない店があり、しめたとそこへ入った。

センスのない昼食を終えて、井の頭公園方面へぶらぶらあるく。井の頭公園のなかは、花見のひとでいっぱい。思うようにあるけないありさまだった。

友人「花見、好き?」
ぼく「あんまり」
友人「おれ、嫌い。花見してるやつらの気がしれないね」
ぼく「そうだね」
友人「ま、貧乏人が花見とかするんだけど」
ぼく「そうだね」
友人「ま、おれもひとのこと言えないけどね(笑)」
ぼく「そうだね(笑)」
友人「きみもね」

井の頭公園を出て、玉川上水に沿ってあるいた。

山本有三記念館で内部を公開していたので見学させてもらう。二階だての豪壮な洋風建築である。裏庭もかなり広い。築山や四阿もある。ぼくは実は前に一度来ていたことがあった。そのときは表の庭の姫沙羅が白い花をひとつ咲かせていたのであるが、まだ芽吹いてもいなかった。

上水沿いをあるく。松任谷由実の歌でなんだかそんな歌があったような気がした。上着を着ているとじわりと暑いが、脱いで手に持つのも億劫なので帽子を取った。いくらか違う。友人はずっと喋り通しで、ぼくは「そう?」とか「へえ」とかいっている。小金井市を過ぎ、小平市へ入り、小金井街道を横切ってしばらく行ったところにあるガストで休憩する。友人はクリームあんみつとドリンクバー、ぼくは苺パフェとドリンクバー。

友人「ぎゅうひって、何で出来てるんだろうね」
ぼく「さあ」
友人「でんぷんか?」
ぼく「何だろうね」

そのとき、和菓子に関する仕事しててそれくらいのこと分からないのか、という神様の声がした。わかりません。すみません。しおしおと苺パフェをつつく。

上水沿いの道は、遠くに武蔵野らしい雑木林を戴きながら金色の夕日をぎらぎらとさせていた。しきりに鳥の声がする。鳴き声からしてヒタキ系の鳥だ。

立川市に入り、西武拝島線の玉川上水駅からモノレールに乗った。「砂川七番」「立飛」などという駅を過ぎる。立川駅北口に着いたころはとっぷりと暮れていて、ひもじい思いをし始めていたので、夕食にした。友人はぼくの食べているカレーをすこしばかりくれといったので、スプーンでお裾分けした。お礼に友人は焼き肉を二三片分けてくれた。

立川から国立まであるき、国立から西国分寺まであるいて、そこでやっと電車に乗った。友人は吉祥寺で降りた。ぼくはそこからひとりで、なんとなくふくらはぎが痛いなと思った。

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