2009年10月31日土曜日

〔暮らしの歳時記〕石蕗の花 山田露結

〔暮らしの歳時記〕
石蕗の花

山田露結


最近は何もイイ事がない。
「いい事ないなあ。寂しいなあ。」とブツブツ言ってたらコンちゃんが「またその話か。」と言ってイヤな顔をした。彼の言葉はいつもオレを不安にさせる。

「飲みに行く?」

オレはコンちゃんを誘って町のはずれにある『マデ』という行き付けの居酒屋へ向かった。音楽好きのマスターがやってるその店にはいつもフォークギターが置いてあって、時々常連客が弾き語りをすることがある。その日、店は忘年会のあと流れてきた連中なんかでけっこう賑わっていた。オレが生ビールをジョッキで立て続けに3杯飲むと、マスターが「今日は調子いいねえ。ちょっと何か歌ってよ。」と言うので、待ってましたとばかりにギターを弾いて歌いはじめた。

オレは調子に乗って2、3曲続けて歌った。オレのレパートリーはフォーク・ソングやら演歌やら滅茶苦茶だがこの店に来る客はだいたいオレと似たような世代だったので大いにウケた。どういうわけかオレが歌う度、喋る度に拍手喝采が起こり、店中を巻き込んでの大盛り上がりになった。「君、面白いねぇ。」と言っておひねりをくれる客まで現れた。こんな経験は初めてである。オレはまるでスターにでもなったかのような気になって上機嫌で歌いまくった。歌いながらビールのジョッキをいったい何杯空けただろうか。その間、コンちゃんは騒いでいるオレを尻目にカウンターの隅に座ってずっと一人で黙って飲んでいた。

目が覚めると自宅の玄関の前だった。何時まで店にいたのか、どうやって帰ってきたのかはまったく覚えがない。なぜか家の鍵を手に握り締めたまま、中へは入らずに靴を枕に寝ていたようである。こんな季節によく表で寝ていられたと思うが、不思議と体は温かかった。

起き上がって上着のポケットから携帯電話を取り出して開いて見ると、コンちゃんからの着信履歴が何回か残っていた。それからもう一人、誰だかわからない電話番号からも着信履歴が何回か残っていた。

「誰だろう。」

オレはその誰だかわからない電話番号へ掛け直してみた。

「あ、もしもし。スミマセン。あの、電話、もらいました?」

「・・・・・」

「あの、もしもし?」

確かに誰か電話に出ているのだが、どういうわけか相手は何もしゃべらない。
しばらくすると女の声で一言、

「あんた、サイテーだよね。」

そう言って電話はそのままプツっと切れてしまった。オレは急に不安になってコンちゃんに電話してみた。

「もしもし、コンちゃん?あのさー、ゆうべ何かあった?」

「え?何かあったって、覚えてないの?けっこうめちゃめちゃだったよ。店のトイレに客の女を引っ張り込むしさあ。『マデ』のマスターもかなり怒ってたよ。」

まさか、と思った。まったく何も覚えてない。コンちゃんはそれ以上詳しくは話さなかった。オレも聞きたいと思わなかった。聞くのが怖かった。オレはふと『マデ』の店内にマスターの字で書いてある張り紙を思い出していた。

「飲み潰れるマデ。夜が明けるマデ。」

店で盛り上がったときにいつもマスターが言う文句である。しかし、いくら飲み潰れるまでと言ったって限度がある。昨夜はちょっとやり過ぎたみいたいだ。

「何やってんだろうな、オレ。」

急に悲しいような、切ないような、何とも言えない気持ちで胸が一杯になった。表を見ると家の前をサラリーマンや高校生が足早に通り過ぎて行く。もう出勤時間なのだ。ふと向かいの家の庭にかたまって咲いている石蕗の花が目に飛び込んできた。朝の日差しに照らされたその無垢な黄色がやたらにまぶしく、何かオレを責めているようにも思えた。

数日後、再びコンちゃんに会った。
「いい事ないなあ。寂しいなあ。」とブツブツ言ってたらコンちゃんが「またその話か。」と言ってイヤな顔をした。彼の言葉はいつもオレを不安にさせる。今日は酒を飲まずに寝よう。


さびしさの眼の行く方や石蕗の花  蓼太

2009年10月30日金曜日

2009年10月29日木曜日

〔祐天寺写真館32〕テールランプ

〔祐天寺写真館32〕
テールランプ

長谷川裕

自動車は昆虫に似ている。


目黒区 Nikon D300

2009年10月28日水曜日

●「北斗賞」創設

「北斗賞」創設

第1回 「北斗賞」募集(『俳句界』2009年11月号より)

条件:既作・新作・未発表作を問わず自作150句
応募資格:年齢満40歳まで
応募料:無料
締切:2010年3月31日(消印有効・郵送のみ受付)
選考委員:石田郷子・五島高資・高山れおな
受賞作は文學の森より句集出版

※原稿書式、送付先等、詳細は≫こちら

2009年10月27日火曜日

2009年10月26日月曜日

2009年10月25日日曜日

●りんごの歌

りんごの歌



空は太初の青さ妻より林檎うく  中村草田男

星空へ店より林檎あふれをり  橋本多佳子

皿の上の林檎揺れをり食堂車  高浜虚子

2009年10月24日土曜日

2009年10月23日金曜日

2009年10月22日木曜日

〔祐天寺写真館31〕シャガール

〔祐天寺写真館31〕
シャガール

長谷川裕


銀河系のとある酒場ならぬ、とある喫茶店。

国立 Nikon D300

2009年10月21日水曜日

2009年10月20日火曜日

2009年10月19日月曜日

〔暮らしの歳時記〕きのこ さいばら天気

〔暮らしの歳時記〕
きのこ

さいばら天気


去年の12月に死んだ山本勝之が、あるとき、東京近郊の山の中で、きのこを買った。

吟行の途中、掘っ建て小屋があって、ヒッピーの生き残り、というか、「ずっとヒッピーやってます」てな感じだから、年の頃なら還暦ほどのオッサンが数人、昼間から暇そうに軒下に坐り、烏骨鶏の卵やら山草を棚に並べて売っていた。山本勝之が目を付けたのは、そうした商品ではなくて、そのへんに捨て置かれたきのこだった。

「それ、ダメだよ」とオッサン。

けれども、未練が残ったらしい。山本勝之は「どうしても」と頼み込み、手に入れた。ヒッピーが摘んできたのだから「魔法のきのこ」だと踏んだのだろう。たいせつに持って帰った。

後日、「あれ、どうだった?」と訊いてみると、激しい腹痛に襲われ、トイレに駆け込むと、真っ黒な便が出たという。

ふつうに、毒きのこでしょ? それ。

「エラい目に遭うたわ」

山本勝之は笑いながら答えたが、その笑顔は、苦痛に歪んでいるようにも見えた。その夜がよみがえったのか、笑うとき、苦しいとき、どちらも同じような顔になるのか、そのへんは不明。

ああ、しかし、勇敢にも喰ったのだ。彼は。素性の知れぬきのこを。

どこまでむちゃくちゃなんだ? と大いに感心したものだ。


  これはいい茸だしかも二つある   鴇田智哉

  三つほど悪い茸が出てゐたる     〃


2009年10月18日日曜日

■日本全国俳句日和

NHK-BS2 日本全国俳句日和

10月25日(日)11:00-16:00 放映
10月19日(月)13:00 投句受付開始
≫詳細 http://www.nhk.or.jp/bs-tankahaiku/

2009年10月17日土曜日

■現代俳句全国大会・入賞作

現代俳句全国大会・入賞作
第46回現代俳句全国大会(現代俳句協会主催、毎日新聞社後援)の入賞者が16日、決まった。応募1万5432句から選ばれた。授賞式は31日、東京都台東区の東天紅上野店で。主な入賞者と作品は次の通り。(敬称略)
<現代俳句全国大会大賞>神奈川県中井町、山口清山(82)「風になる人から入る芒原」▽東京都八王子市、千葉三郎(82)「九人産んだ大きなお尻潮干狩」<毎日新聞社賞>大分県九重町、駒走松恵(92)「沖縄忌母は生涯海のいろ」
毎日新聞 2009年10月16日 20時10分

2009年10月16日金曜日

●おんつぼ21 G.ラヴ&スペシャル・ソース さいばら天気


おんつぼ21
G.ラヴ&スペシャル・ソース
G. Love & Special Sauce


さいばら天気






例によって、ものぐさにも、Wikipediaによれば…
G・ラヴ&スペシャル・ソース(G. Love & Special Sauce)は、アメリカはフィラデルフィア出身のオルタナティヴヒップホップバンド。ジャズやブルースといったルーツ・ミュージックをベースにしつつ、ヒップホップを取り込んだ複合的な音楽性が特徴。陽気でゆったりとしたグル-ヴにG・ラヴのラップが合わさったオーガニックな曲調は評価が高く、旧知の仲であるジャック・ジョンソンらと共にサーフ・ミュージック・シーンの代表格としても人気が高い。
…とあって、参考にしたい人はしてください(*1)

私自身は、こういう記述、どうでもいいなあ、と。「ヒップホップを取り込んだ」って言われても、ピンと来ないし、「サーフ・ミュージック・シーンの代表格」と言われても、そういう脈絡で聞いてるわけではないし。

まあ、そうした資料は置いておいて、どんな音楽かといえば…

 たらっとしている

このひとことで済む。

ギターを弾いて歌い、ときどきハーモニカ(ブルースハープ)を吹くのが、G. Love という青年。「たらっ」とした感じは、このギターから来るところが大きい。これでいいのかなあ、まあ、これでいいんだろうなあ、といった演奏で、頼りないといえば頼りないが、それで問題か?と問われれば、まったく問題ありません。

楽器の演奏技術というのは、手段であって目的ではない。技術の要不要は、何をやりたいか、による。高度な技術、洗練された技術が必要な音楽なら、それが必要になるし、違うなら、不要。

むかし、知り合いの音楽ライターの知り合いの音楽ライター(ややこしい)が、日本公演の最中の楽屋に、この G. Love を取材に訪ねたところ、ジャムセッション風に遊びながら、ギターを弾いていた。ライブでヘタそうにギターを弾いていても、そこはプロ、実は巧かったりする、というアタマがあったが、聞いてみると、「マジでヘタ」だったそうで、なかなかいい話である。中途半端にじょうずだったりすると、「たらっとした感じ」は出ない。

さて、G.ラヴ&スペシャル・ソース。泥臭いおもしろさはあるし、レイドバック(*2)なところも、いい感じである。

ずぼら度 ★★★
へなちょこ度 ★★★★

(*1)もっと詳しく、という方は、英語版でどうぞ。≫G. Love & Special Sauce
(*2)レイドバック 数十年前によく使用されたポップ音楽用語。簡単にいえば、「くつろいだ、のんびりとした、ゆったりした」。つまり、友だちの家に行ったら、まずは何はともあれ炬燵に潜り込み、しゃべる話題を探すこともなく、たらっと、怠惰に過ごす、あの感じだ。




おすすめアルバム↓

2009年10月15日木曜日

〔祐天寺写真館30〕仙寿院交差点

〔祐天寺写真館30〕
仙寿院交差点

長谷川裕

この手前のトンネルはお化けで有名。


渋谷区 Nikon D300

2009年10月14日水曜日

〔鉄道物語〕ルリちゃん 中嶋憲武

きょう10月14日は「鉄道の日」。


ルリちゃん

中嶋憲武


日だまりの私鉄の車内。ある駅で三つくらいの女の子を乗せた乳母車を押した若い母親と、その友人らしき女性が乗って来て、僕の隣りに座を占めた。

女の子は、さとう珠緒って小っちゃい時きっとこんな顔だったんだろうなと思わせる顔つき。その時、僕はQuickJapanの「小島慶子キラ☆キラ」の特集を読んでいて、意識がそちらに向いていなかったのだが、女の子の幼児特有の大きく響く声と、声を発するたびに全身に力が籠るのか、足をバタバタするので女の子のつま先が、僕の脛あたりにいちいち当たり、自然に意識がそちらに向いていった。

母親が女の子に、こう尋ねているところだった。女の子はルリちゃんというらしい。
「ルリちゃん、悪魔?」

「悪魔じゃないっ!ルリちゃん!」
怒っているように大きな声で答える。ぼくが彼で、きみも彼で、きみはぼくだからぼくたちはみんな一緒とでも言うように答える。

「天使?」
「天使じゃないっ!ルリちゃん!」
女の子の答える声が大きく高いので、母親はいちいち「しーっ」と口に指を当てている。
「じゃ、ルリちゃん、鬼?」
「鬼じゃない!ルリちゃん!」と、足をバタバタ。僕のジーンズの裾に当たりまくる。
「よその人にいけないでしょ」と、母親。
「じゃ、ルリちゃん、兎だ」
「兎じゃない!ルリちゃん!」
「兎、どうやんの?」
「こう」と言って、女の子は赤い髪留めで留めている両方の髪を、両手でそれぞれ上に持ち上げて兎のポーズを取った。
「兎は跳ねるよね?」
「ハゲルじゃないっ!」ひときわ大きな声だったので母親は更に大きく「しーっ」と指を口に当てて言った。
「ルリちゃん!」

「晴れてるね」車窓からさんさんと日差し。雲ひとつない上天気。
「晴れてない!ルリちゃん!」
「コニちゃん?」…(誰?)
「コニちゃんじゃない!ルリちゃん!…ねー、抱っこ」
「抱っこじゃないでしょ。赤ちゃんじゃないんだから」
「コニしゃん、好きじゃない」
「ヨネトリスケ」…(意味不明)
「モボゴじゃないっ!」…(意味不明。この母と子にのみ共通の話題だろうか?)

終点池袋に到着しますと車内のアナウンス。

「終点だって」
「終点じゃない!ルリちゃん!」
「降りるよ」
「降りんじゃない!ルリちゃん!」

最後の最後までルリちゃんはルリちゃんであると言い張った。



2009年10月12日月曜日

〔link〕食の風景

〔link〕食の風景

高柳克弘「「食」をめぐる風景」(『俳句』2009年10月号)をめぐって

斉藤斎藤さんと佐藤:B.U.819
歌は読んでるだけでおもしろい:曾呂利亭雑記


2009年10月10日土曜日

■誓子 句誌創刊のメモ初公開

山口誓子 句誌創刊のメモ初公開

2009年10月10日 読売新聞

神戸大学百年記念館(神戸市灘区)で16日まで。

2009年10月9日金曜日

〔link〕句誌を読む

〔link〕句誌を読む

「小熊座」2009年10月号から:閑中俳句日記(別館)-関悦史
「都市」2009年10月号から

創刊号二冊(『秀麗』・『蒐』):喜代子の折々

2009年10月8日木曜日

〔祐天寺写真館29〕髭

〔祐天寺写真館29〕


長谷川裕

むしってしまうのが惜しい。好物。


Nikon D300

2009年10月7日水曜日

2009年10月6日火曜日

【評判録】中原道夫『緑廊(パーゴラ)』〔続〕

【評判録】
中原道夫句集『緑廊(パーゴラ)続〕

2009年9月・角川学芸出版

:ono-deluxe


2009年10月5日月曜日

【評判録】後閑達雄『卵』

【評判録】
後閑達雄句集『卵』

2009年9月・ふらんす堂

祈りのように…:ふらんす堂編集日記

後閑達雄(1)後閑達雄(11):二百字詰原稿用紙

2009年10月3日土曜日

2009年10月2日金曜日

〔link〕現代俳句評論賞・佳作2篇

〔link〕現代俳句評論賞・佳作2篇

第29回現代俳句評論賞・佳作2篇はネットで全文読むことができます。

●関悦史「他界のない供犠~三橋鷹女的迷宮について」
豈 Weekly 第52号

●田島健一「俳句の不可能性への架橋~『第二芸術論を読む」
前編:週刊俳句第57号   ≫後編:週刊俳句第58号

2009年10月1日木曜日

〔祐天寺写真館28〕長者丸踏切

〔祐天寺写真館28〕
長者丸踏切

長谷川裕

もとの山手線。現在の山手線はこの頭上を走っている。


09年04月 品川区 Nikon D300