2011年6月3日金曜日

●金曜日の川柳 樋口由紀子


樋口由紀子
  







くちびるはむかし平安神宮でした


石田柊馬(いしだ・とうま) 1941~


平安神宮の枝垂れ桜は有名で、もうすぐ花菖蒲が見ごろである。しかし、この句は神苑ではないようである。岡崎公園の入り口に聳え立つ朱塗りの鳥居だろう。以前私は鳥居のあまりの大きさに思わずたじろぎ、あとずさりしてしまったことがある。下から見上げたときのでっかさは格別で、朱色にはなんともいえぬ威圧感があった。作者もむかし、女性のくちびるの前でひるんだ経験があるのだろう。それもかわいらしいくちびるではなく、口紅を真っ赤に引いたぶあついくちびるに。柳多留に<百両をほどけば人を退らせる>がある。平安神宮もこのように詠まれては身も蓋もない。『ポテトサラダ』(KONTIKI叢書Ⅰ・2002年刊)所収。

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