樋口由紀子
恋人の膝は檸檬のまるさかな橘高薫風 (きったか・くんぷう) 1925~2005
〈恋人の膝は檸檬のまるさ〉これって恋人を褒めているのだろうか。現在の若い女性なら檸檬のまるさと言われてもピンとこないだろう。それよりももっとインパクトのある、いかにも美しいと言う褒め方をしてほしいと望むかもしれない。物や情報などありとあらゆるものが溢れるとこの程度のシンプルさではなかなか満足してもらえない。味気ないことである。
初恋の味はカルピスだった。それももうすっかり古くなってしまった。先日ある句会で「百円札」の句を出したら、「ピンときません」「年齢が分かります」と言われてしまった。
檸檬といえば、鮮やかな黄色がぱっと目に浮び、酸っぱさが口の中に広がり、質感とともに恋を象徴している。膝というのは微妙なところである。橘高薫風は麻生路郎亡き後、同志と川柳塔社を興し、編集長となる。抒情性のある作品を多く残した。『檸檬』(1965年刊)所収。
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