相子智恵塔あらば千の虫籠吊るしたし 青山茂根
句集『BABYLON バビロン』(2011.8/ふらんす堂)より。
この〈塔〉が私に、異国の塔(たくさんの鐘がディンドンと鳴る、石造りの古い教会や、時計塔のような)を思わせるのは、『BABYLON バビロン』という句集の佇まいと、異郷をゆく漂鳥のように一見華やかに見えながら、心の奥底には漂泊の寂しさと諦念、だからこそ詩に生きようという強い矜持の入り混じった、作者の無国籍な句群による。
なにしろ〈千の虫籠〉である。虫一匹を身近に鳴かせ、秋の風情を楽しむ日本の情緒の中の〈虫籠〉とはスケールが違う。吊るされた高い塔の上で、夜ごと鐘の音のように、一斉に鳴き募る囚われの千の虫たち。なんと美しく、そして残酷な夢であろうか。
そして私はさらに夢想するのだ。
ある晩、この囚われの〈千の虫籠〉が一斉に解き放たれ、千の鳴き声とともに、虫たちが夜空に飛び立つ姿を。そのキラキラとした羽が星屑のように、夜空に撒き散らされることを。
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