相子智恵一木を楔となして大花野 沼田真知栖
句集『光の渦』(2011.9/ふらんす堂)より。
広大な花野を繋ぎとめるかのように生えた、一本の木。この木は何の木だろう。
紅葉しているのか、常緑樹だろうか。あるいは枯ちた大木のようにも、人間が忘れ去った一本の杭のようにも思える。
〈大花野〉は一枚の美しい布のように、この木に繋ぎとめられている。風が吹けば秋の草花たちは一斉に靡き、まるで大きな旗がはためくようだ。その草花をぐっと繋ぎとめた一木は、私の頭の中では堂々とした輪郭の木なのだが、影絵のように漆黒でその姿が見えない。
〈大花野〉はぐんぐんと広がってゆき、やがて空へと舞い上がる。一本の木が〈楔となして〉いることで、私の想像の〈大花野〉は、かえって安心したように、自由に悠々と広がってゆく。
この〈一木〉こそが、広がりを生んでいるのだ。
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