樋口由紀子
明日らしく新金属が煮えている兵頭全郎(ひょうどう・ぜんろう)1969~
兵頭は以前「書くほどの思いを僕は持っていない」と発言したことがある。確かにこの句に作者の思いは見当たらない。そして、意味を一つ一つ拾っていっても解釈は困難である。
「明日らしく」とはなんという日本語であろうか。しかし、ここを「私らしく」とか「男らしく」にすると何もおもしろくない。「新金属」だって、どんな金属?と首を傾げる。新人類は人類には変わりないが、新金属は金属とは別のもので、煮えるのかもしれないと思ったりもする。未知の明日を想定しながら新金属というものが煮える。
作者の思いや判断があまりにもはっきりと出すぎて、そうとしか読めなくて、かえってつまらなくなってしまう川柳もあるが、この句はその真逆。このような形で意味を放出する川柳もある。「Leaf」(第4号 2011年7月)所収。
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