樋口由紀子
後手で夕焼けを閉めポルノでも見にゆこ奥室數市 (おくむろ・かずいち) 1923~1986
夕焼けは鮮やかである。夕焼けを直視できないやましさがあったのだろうか。「後手」がなんともやるせない。しかし、さらにやましさとやるせなさを加速させるように「ポルノ」を見にゆこうとする。「夕焼け」という美的なものと「ポルノ」という通俗的なものの並列によって屈折した男の心情を出している。
數市氏とは一度だけ川柳大会でお会いしたことがある。大正生まれの人にしては大柄で、といっても太っているのではなく骨格が大きく、手もびっくりするほど大きかった。聞けば、元力士さんだったらしく、わざわざ四股を踏んで見せてくださった。やさしい人柄がにじみ出ていて、このやさしいが力士寿命を短くしたのかなと思った。〈胃の中で暮しの蝙蝠傘押しひろがり〉
『奥室數市集』(川柳新書・第二十三集)所収。
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