相子智恵すれちがふ少女寒気のつぶてめく 今井 豊
句集『草魂』(2011.6/角川書店)より。
このところ、忙殺されていて毎日の記憶が薄い。そしていつの間にか、冬が立ってしまっていた。なんということだろう、万事が速すぎる。
……とはいえ、この句の颯爽とした速さには生き返る。冬らしい強さと楽しさがある。
少女が駆けてきて、作者とすれ違ったのだろう。すれ違う一瞬、少女が起こす風を感じる。その〈寒気のつぶて〉を投げるようなスピード感。
ランドセルで駆け抜けた小学生か、あるいは足早に闊歩する女子高生でもいいかもしれない。
言葉の感触は冷たいのに、この句には熱さがある。それは〈寒気のつぶて〉に、少女の生命の熱が込められているからだ。
大人になってからの「記憶の薄い速さ」と、少女の「生命が熱い速さ」は、真逆である。
記憶が薄い速さはいやだ。生命の熱い速さがいい。
空気がキリッと澄む冬はなおさら、そういう速さがいい。
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