相子智恵火事の日の星の大きく見ゆるなり 北川あい沙
句集『風鈴』(2011.8/角川マガジンズ)より。
初学の頃、これも季語になっているのかと驚いた「へぇ~季語」の一つが「火事」である。冬は空気が乾燥して火事が多いから、という理由を聞けば納得だが、なんとなく不謹慎な感じがした。
そしてもっと驚いたのは、以前、自分が住んでいたアパートの上階で小火が出た時のことだ。
正面玄関は消火の水の勢いが強くて出られず、最下階の裏手側に住んでいた私は、住民を部屋の中に誘導し、裏手のベランダから逃げてもらった……とまあ、そこまではよしとして。
幸い死傷者がいないとわかったとたん、気づいたら私は目の前の火事を俳句に詠み始めていた。そんな自分の業の深さに、自分でちょっと驚いた。俳句は魔物のようだというが、やはりそうだったかと実感した日だった。
さて、掲句。この句の美しさの中の、うっすらとした「酷薄さ」がそんなことを思い出させた。ぽつねんと大きな星が美しい。それがたとえ〈火事の日〉であっても。いや〈火事の日〉だからこそ、だろう。
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