樋口由紀子
夜桜を見て来て誰も寄せつけず渡辺康子 (わたなべ・やすこ) 1942~
やっと桜が満開になった。桜は不思議な花である。人は桜に誘われてふらふらと出掛けていく。そして、桜を観たあともなにやらふらふらとしている。この句、夜桜の本質をついているように思う。
川柳をはじめて少し経った頃に掲句と出会って、ドキリとした。桜の季節になると毎年思い出す。大人の女性の句で近づけない雰囲気があった。その当時も充分に大人の歳であったけれど、私にはまだ縁のない世界で、いつかはこのような川柳を詠めるようになるのだろうと淡い期待を抱いた。それから月日も流れて、大人の歳を充分すぎるほど過ぎてしまったが、まだ詠めないでいる。
〈むらさきの夜をつくっていくさくら〉〈あれは花火だった 前略のはがき〉〈赤い実は赤らむことをたまわりぬ〉
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