樋口由紀子
あぶらあげあるとあんしんしてしまう岩根彰子 (いわね・あきこ) 1942~
油揚げは冷凍保存できるので、我が家の冷凍庫にはいつでも2、3枚は常備している。油揚げは地味だがなくてはならない食材で、あるとないのでは料理の出来ばえは格段に違ってくる。
が、掲句はひらがな表記にすることのよってそのような生活臭は緩んで、おっとりする。〈油揚げ有ると安心してしまう〉と漢字を入れて書くと単なる事実を述べているだけに終ってしまって、ほんとうにつまらない。なぜ、ひらがなの羅列が事実を含みながらも、意味はどうでもよくなってくるのだろうか。
まず、視覚。まんまるいひらがなが絵のように跳ねて、並んで、やわらかく、目で楽しませてくれる。そして、聴覚。前半の四つの「あ」、後半の三つの「し」のたたみかけるような音。目と耳が言葉の隙間を想像させ、実用の意味を超え、のどかな雰囲気をかもしだした。「Tuzuki」(2012年3月刊)収録。
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