相子智恵
ください蝙蝠の翼でいいから 石原 明
句集『ハイド氏の庭』(2012.6/文學の森)より。
軽い可笑しみと、哀しみの暗い熱とが同居している句集だ。序文を書いた花森こまによれば〈60年代、70年代を駆け抜けてき〉た作家のようで、たしかにそういう空気をまとっている。
自在な読みぶりの中には、たとえば〈旅に病んで暑中見舞を書いてをり〉のような本歌取りなんかもあって、そのなかで掲句はやはり「翼をください」というあの歌が下敷きにあるのだろう(1971年 フォークグループ「赤い鳥」によって発表され、現代まで歌い継がれるあの曲だ)。
悲しみのない自由な大空を飛ぶ明るい「白い翼」ではなく、夜や暗い場所を飛ぶ「こうもりの翼」でもいいという。明るい空を飛ばなくていいから翼がほしいというのは、なんとも切実な願いに思える。さまざまに希望のない状況であってもやはり、私たちは飛びたいものなのだ。
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拙句採りあげていただきましてありがとうございます。思いもよらぬこととてハイな気分になっています。
返信削除句集を出してからつくづく俳句は読まれることによって俳句になるということを実感しております。
これを励みにしてこれからも俳句に取り組んでいきたいと思っています。
相子智恵様
石原拝