樋口由紀子
月を観ている忘れられたパンツ
木暮健一 (きぐれ・けんいち) 1936~
外出をしていて、帰宅が遅くなって、夜にあわてて洗濯物を取り込むことがある。暗いし、慌てているので、靴下などをとり忘れる。が、ここでは下着のパンツである。物干し竿にぽつんと取り残されたパンツ。なんだか格好悪いし、恥ずかしい。しかし、パンツは大切なものである。
パンツの持ち主は気がついていない。なかなか取りこんでくれそうにもない。しかたないのでパンツは月をみている。月もパンツが心配でじっとみている。ほのしろいまんまるな二つのものが呼応する。月とパンツはなんだか似ているような気がしてきた。パンツと月は意外と絵になる。
「パンツ」は震災で取り残され、忘れられそうになっている人々の比喩かもしれない。「触光」(24号 2011年)収録。
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