相子智恵秋風や屋上にある潦 佐々木敏光
句集『富士・まぼろしの鷹』(2012.7 邑書林)より。
ビルの屋上にある〈潦〉(にはたづみ=水たまり)は寂しい。
コンクリートの屋上のうっすらとした凹みに溜まった雨水は、大地にできた水たまりのように、そこに染み込むことができないからだ。屋上の水たまりは、乾いた風と日光に蒸発してゆくのをただ待つのみである。防水処理が丁寧にほどこされた現代のビルの屋上ならば、なおさらだろう。
〈秋風〉が、そんな水たまりに静かな漣を立てている。乾いた秋風はゆっくりと水たまりをなぶり、乾かしてゆく。
これが、ふわっと優しい「春風」では間が抜けてしまうし、「木枯し」では冷酷すぎる。からりと軽くて薄情な〈秋風〉だから、この乾いた都会的な味わいが出せるのだろう。
何気ない風景の中に、現代の秋の寂しさを感じさせる一句である。
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