2012年9月13日木曜日

●節電 上野葉月

節電

上野葉月



相変わらず残暑が厳しいのだけど、節電なんてことは誰も言わなくなった。増税から話を逸らすためなのだろうか、何十年も放置している領土問題(?)のことばかり話題になったりしている。

もとよりこの不景気、電気が余ることはあっても足りなくなるなんてありそうもない。

原発事故は色々の面で影響を与えていると思うのだけど、全国の善男善女が政府やマスコミの発表を鵜呑みにしなくなった点が目立つ影響のひとつのように思える。一年半前から多くの人がそれ以前よりはるかに疑い深くなった。

そういえば今後健康被害は長期的に問題化するだろうけど、日本というブランド価値の凋落はすでにかなり深刻な影響が出ていると言えるのではないか。昨今の輸出の不調は単に円高が原因ではなく日本そのもののイメージが下がったせいだろう。食料に限らず、工業製品や部品だって同じ程度の性能だったら露天原子炉状態ではない国のものを優先して買うのは当然だし。

なんか日本人と言うと、組織の運営とかは苦手でも少なくとも現場で働いている人間の技術や勤労意欲は地球上で屈指の高品質という偏見を私もいつの間にか抱えていたわけだし、おそらく世界中の人が日本人はとにかくきちんと仕事するという似たような偏見を共有していたと思う。今ではそういう評判も影をひそめてしまっているが。

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ともあれ原発事故から一年半。とても一年半しか経っていないとは信じられないほど原発事故以前の日本を別の国のようにすら感じるのだけど、福島第一原発についてわかっていることを覚書程度にまとめてみたい。

A. 一号機

2011年3月12日に派手に水素爆発した一号機はメルトダウンが最も早く、地震当日3月11日にはすでにメルトダウンが始まっていたと考えられている。

ただし二号機とは違いベントが間に合ったので格納容器はある程度の形状を留めているため外部に設置された臨時の配管で循環冷却中。大量に発生している汚染水をどう処理しているか、どうもはっきりしない。

B. 二号機

建屋がもっとも壊れていない二号機だが、事態は最も深刻であるらしい。

ベントが間に合わなかったため3月15日圧力容器格納容器が損傷し、メルトダウン後燃料が外部に漏れる(メルトスルー?)に至った。

放射線量が致命的に高く誰も近くに寄れないため、昨年三月以来完全に放置状態で中身がどうなっているか想像するしかない。

おそらく燃料はかなりの量が地中に溶け出しているのだろうけどどの程度の深さまでどの程度の量漏れ出したかは誰もわからない(それはそうだ、誰も実験したことないのだから)。また今後もどうするか何も決まっていない。それこそアニメに出てくるような超が三つも付きそうなスーパーロボットでも開発されない限り何百年も放置されることになるのだろう。

素人考えだが、チェルノブイリ事故が国際基準でレベル7なら、この二号機だけでレベル8を新たに設けてもいいように思う。なにしろチェルノブイリの場合、半年で石棺化されたのだし。

東京電力が事故当時の電話会議の映像を部分的に公開したため3月14日に福一からの全面撤退を政府に進言し、当時の菅首相に叱咤されて全面撤退を見送った経緯はほぼ明らかになったけど、二号機に関しては全面撤退したのとほぼ同等の放置状態であると言える。

C. 三号機

3月14日に大爆発を起こした三号機。公式には水素爆発ということになっているけど、フェアウィンズアソシエートのガンダーセン博士が指摘しているように即発臨界なのだろう。

皮肉なことに一号機より建屋が頑丈だったため、水素爆発の衝撃が外部に漏れずプールに保管されていた使用済み燃料に膨大な圧力がかかり臨界したのだと言う話だ。即発臨界なんていうと難しげだが要するに中途半端に核爆発したのだ。インドあたりで核兵器の実験を行ったりするとよく失敗して似たような状況になったりするあれである。

素人目には建屋がほぼ無くなっているように見えるのだが、やはりベントが間に合ったので圧力容器格納容器は一応残っているらしい。一号機と同様に冷却中。

福島第一原発の事故では死者は出ていないことになっているが、あの大爆発で死者も怪我人も出なかったなんて信じられない。本当に不思議なので常々思うのだが、あれで死者も怪我人も出なかったという話を鵜呑みに出来る人がもし居るなら是非説得されてみたい。十キロ以上離れた南相馬市でも使用済み燃料棒の破片が見つかったような爆発なのに。

ちなみに四号機の使用済み燃料プールの千五百本以上の燃料棒のことは頻繁に話題になるけど三号機のプールにあった五百本程度の燃料棒については誰も口にしたがらないような気がする。即発臨界で全て消費されたとも思えないので周辺にまだ散らばっているのかそれなりに回収したのか、あるいは大半は福島の海に落ちたのだろうか。

D. 四号機

昨年三月の事故で何に驚いたかというと(まあ驚くようなことだらけだったのだが)、定期点検中で稼動していない原子炉も稼動中の原子炉と同様に事故を起こし十二分に危険な存在だということがもっともショックだった。

私は仕事先が首相官邸に歩いて行ける距離なので毎週のように金曜日に官邸前の再稼動反対デモを見学に行っているのだけど、結局のところ全ての原子炉が止まったところでまったく安心できない。廃炉にして取り出した燃料棒をすべて始末しなければ何の解決にもならないのだ。本当に道のりは長い。

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二号機の中身がどうなっているか分からないことはすでに触れたが、四号機に関しても何があったか情報が非常に少ない。15日に火災という報道があったが壊れ方からすれば爆発と呼んでいいようなものだったのだろう。

また昨年3月22日に首都圏ではかつてないほどの放射性物質の降下があったので3月21日か22日に福島で大規模な爆発的事象があったのは確かだと言うのが世界中の専門家の共通の見解らしいのだけど、これが四号機での出来事ではないかと思っている人もどうも少なくないらしい。

四号機の(壊れかけた)燃料プールには千五百本以上の燃料棒が残っており、ここの水がなくなり燃料棒が空気に触れるような事態になれば、東日本壊滅、地球はかつてなかったような環境汚染を経験することになるという警告が多くの識者から発せられている。

もしその通りであるなら、日本の国力を全て使うなり世界中の専門家の知恵を結集するなりして対処しなければならない最優先事項であるはずだ。私は脱原発派ではあるが、もし仮に(まったくもってそういう事態は想像外だが)福島第一原発四号機の燃料棒を始末するために日本中の総発電量に相当する電気を集めて対処しなければいけなくなったら、一時的に原発を稼働させるしかないだろうとは思う。まあそういう「ヤシマ作戦」みたいな事態はありそうもないが。

一方で四号機のプールには燃料棒がちゃんと残っていないと考えている人もけっこういる。福一の事故全般に関して情報公開は相変わらず不十分なので疑心暗鬼になってしまうのは自然な成り行きだとも言える。特に四号機に関しては情報が少ない。

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ともあれ福一の事故が何らかの奇跡的な僥倖に恵まれて収束したところで、今後日本で新たに原子力発電所が建設されることはありえないだろう。どんな追い詰められた自治体でも住民の同意を得ることは無理だと思う。

数十年後には原子力発電所は全廃されるのだろうけど、使用済み燃料はどう始末することになるのか。地中深く埋めるとか、オモシでもつけて日本海溝の底に沈めるとか、あまりにもスマートじゃない結末が待っているのだろうか。

現状でも日本には数万本の使用済み核燃料があり、日本ではウランが取れないのだからこれが全て高い金払って外国から購入したものだと考えると意識が遠くなるような気分になる。

世の中には(おそらくそんなに人数はいないのだろうけど)原発推進派という人達が確かに存在しているのだが、やっぱり私にはまったく理解できない。たとえば科学的な探究心とかあるいはプルトニウムを貯蔵して日本はその気になればいつでも核武装できるという姿勢を見せるという政治的な思惑など理解不能ではないのだが、そのためだったら試験的に運用する原子力発電所を二三箇所建てればいいだけで五十基も必要ない。

単に目先の金だけが原動力なのだろうか。それではあまりにもデメリットの方が多すぎる。原発推進派の中にも子供や孫がある人たちだっているだろうに。まさに不可解だ。



原発:ウラハイ 2012年2月9日


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