樋口由紀子
開脚の踵にあたるお母さま
なかはられいこ 1955~
開いた脚の踵に偶然母親があたることは生活をしている中で起こりえることかもしれない。しかし、ここでは書かれたことをそのまま読むわけにはいかない。なぜならば、「お母さま」だからである。
「お母さま」の取り澄ました言い回しは、一句に痛烈な落差を生む。一見どうってことない動作がなにやら怪しくなり、本質を突きつけてくる。母親との関係、あるいは母親に対する心情をこういう風に詠むのかと驚く。情に流されるというのではなく、情以上の重たいものを含んでいる。
〈うっかりと桃の匂いの息を吐く〉〈朝焼けのすかいらーくで気体になるの〉 言葉を取り込むセンスがいい。『脱衣場のアリス』(2001年 北冬舎刊)所収。
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