相子智恵
雪吊をして雪を呼ぶ湖北かな 西山 睦
句集『春火桶』(2012.9 角川書店)より。
庭木の枝を雪から守る〈雪吊〉を、雪への備えとして受動的に詠むのではなく〈雪を呼ぶ〉と詠んだ。雪吊をした木々が、雪を恋しく呼んでいるというのだ。
それは白居易の詩「殷協律に寄す」の一節「雪月花の時 最も君を憶ふ」を思い出させる。雪・月・花という季語が持つ“人恋しさ”の原点に、この句はつながっている。
雪吊は金沢の兼六園などが有名だが、伊吹山を望む琵琶湖の北〈湖北〉も雪の多い土地で、雪吊が風物詩となっているそうだ(冬に訪れたことがないので、実際に見たことがないのが残念)。
雪吊をした木という近景から、地名に転じて大きな句となっている。この地名からは琵琶湖の水が思われてきて、雪と水とが清らかに響き合う。そして繰り返される「K」の音の硬い響きに、唱えるだけで寒さがやってくるような、凛とした風情を感じる。清潔で瑞々しい、立句の風格のある句だと思った。
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