相子智恵
恋のごと津軽の吹雪思ふなり 鈴木鷹夫
句集『カチカチ山』(2012.12 角川書店)より。
津軽の吹雪は激しい。空から横なぐりに降る雪はもちろん、強い西風を受けて地面から強烈に吹き上げる、いわゆる「地吹雪」も重なる。四方八方から入り乱れる雪の中で1メートル先すら見えず、ここがどこなのかわからなくなるほどだ。
激しい雪や、速い川の流れなどをじっと見ていると、対象に吸い込まれて意識が遠のくことがあるが、頭の中で〈津軽の吹雪〉を想像しただけでも、そんな気持ちになってくる。
そして〈津軽の吹雪〉のことを思ううちに〈恋のごと〉と、それが恋に似てくるとしたら、その恋はたいそう激しい恋であろう。
語順通りだと「まるで恋のように吹雪を思う」となるのだが、逆に「まるで吹雪のように恋を思う」という視点も自然と生まれてくるのは、入り乱れて降る吹雪の様子からだろうか。「津軽」という、情に厚くて演歌の題材になりやすい地名も〈恋〉と響き、「吹き荒れるような激しい恋」を思わせて、相互に作用している。
いちどそこに没入してしまったら、津軽の吹雪も、そして恋も、どこまでが対象で、どこからが自分なのかすら、わからなくなるのだ。
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