2013年2月11日月曜日

●月曜日の一句〔田中哲也〕 相子智恵

 
相子智恵







卵生の悲しみの列鳥帰る  田中哲也

句集『水馬』(2012.12 青沢書房)より。

鳥類はみな、卵のかたちで生まれてくる。

かつて卵の形で産み落とされた渡り鳥たちは、孵り、育ち、海を越えて日本にやってくる。そして日本での越冬を終え、隊列を組んでまた北へと帰ってゆくのだ。

渡り鳥の隊列に〈卵生の〉が挿入されることで、まるでつるつるとした卵そのものが隊列を組んで空を飛んでゆくような、幻の光景が頭の中に浮かんできたりする。

〈悲しみの列〉の悲しみとは、生まれた渡り鳥に作者が感じている悲しみなのだろうが、逆に、孵らなかった卵の悲しみもまた想像される。スーパーで整然とパック詰めされた白い鶏卵の〈悲しみの列〉にまで思いがおよぶのだ。〈卵生〉の効果であろう。

作者は「小熊座」主宰の高野ムツオと大学からの友人で、同誌同人であったという。本書は自死した彼の遺句集だ。高野は「跋に代えて」で次のように書く。
〈哲也もまた、生き難いこの世を、その生き難さを背負いつつ生きてきたのであった。それは生きること自体が叶わなかった戦中世代から言えば、贅沢過ぎる悩みなのかもしれない。しかし、そこに昭和の戦後から平成の今を生き継ぎ、老いさらばえようとしている、この世代(筆者注:団塊世代)の精神のクレバスの一典型を見る思いになるのである〉
一方、団塊世代といえば、今年の角川俳句賞を受賞した広渡敬雄氏の祝賀会で、「これから俳句の世界に増えるであろう団塊世代の星になってほしい」と正木ゆう子氏がスピーチした明るさが私には印象的だった。ひと口に世代と括ってみても、その捉え方は当たり前だが個人史とともにある。そんな明暗を思った。

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