相子智恵
幽閉のごとく雛を納めけり 斉田 仁
句集『異熟』(2013.2 西田書店)より。
昨日は新暦で雛祭だった。
掲句、雛納めの句だが、なんといっても〈幽閉のごとく〉に惹かれる。宮中の殿上人の装束を模した雛人形を、貴族を幽閉するように箱に納める。
いや、雛人形の立場からすれば、実際に来年まで暗い箱の中に閉じ込められてしまうのだから、まさに幽閉以外の何ものでもないのだ。
人形というのは不思議なものだ。人に似て人ではないが、命がないのに命を感じる。人形(ひとがた)は有史以前から存在し、人間の姿・形を作り出そうとしなかった民族はいないという。
雛人形は形代としての流し雛と、雛遊びとしての遊びごとが融合して現在のような形になったと伝えられるが、身代わりであり玩具であるという、聖俗併せ持つところが魅力的だ。掲句は、その「聖」の部分を感じさせながら、しかも「幽閉」してしまうという背徳にゾクッと美しい魅力がある。「ゆうへい」「ひいな」の長音もゆったりとしていて、雅な雰囲気を醸し出している。
聖俗の「俗」の魅力としては、以下のような肩の力の抜けた明るい雛祭の二句も捨てがたかった。〈やや酔いて雛のあられを失敬す〉〈雛壇のうしろに廻り埒もなし〉
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