樋口由紀子
妖怪は字幕とともに現れる
徳長怜子 (とくなが・れいこ)
先週に続いて、石部明追悼川柳大会での特選句。兼題は「妖怪」(筒井祥文選)。石部自身が妖怪的要素を多分に持っていたための出題だろう。掲句も石部の言った「川柳で大嘘を書いてみたい」と相応する。
妖怪の登場場面を述べているだけで、具体的なことは何も述べていない。正直、どんな妖怪なのかわからない。しかし、意表をつく端的な出現のさせ方は作者の妖怪についての捉え方がなんとなくわかる。また、いろいろと想像して楽しませてくれる。この独断の言い回しが気持ちいい。妖怪はまるで銀幕のスターのようである。
他に「妖怪」で抜けた句(入選句)は〈妖怪のスリッパらしき面構え 草地豊子〉〈また同じ妖怪がいて会釈する 江口ちかる〉〈妖怪は苔のむすまでコリコリする 榊陽子〉。
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