関悦史
焼き切るる前の閃光曼珠沙華 山咲臥竜
姿かたちが印象的過ぎるのが却ってやりにくいのか、曼珠沙華一物の写生句というのは意外と思い当たるものが多くない。
この句は「焼き切るる前の閃光」の暗喩が強烈だが、特に精神性のようなものが負わされているわけではなく、焼き切れた瞬間に熄む火花と、忽然と群生しては姿を消す曼珠沙華の生滅とが重ねられているわけでもない。曼珠沙華の姿を言い表すためだけに引き出された言葉であり、この句は曼珠沙華の実在に体重を委ねている。
飛躍がない暗喩だが、読み下したときに「閃光」が目を引くので、その強烈なイメージと曼珠沙華とを頭の中で重ね合わせていくと、次第に漠然とした景色の一部から曼珠沙華が独立し、ズームアップし、視界が曼珠沙華で満たされていく。
意識にあるのは曼珠沙華だけとなり、放射状に流れ出る蕊がそのままプラズマのようにも思えてくる。この変容の快楽がこの句の最高部だろう。
句集『原型』(2013.4 ふらんす堂)所収。
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丁寧な解説、有難う御座います。
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