樋口由紀子
ハッとしたように切られた花ふるえ
三笠しづ子 (みかさ・しづこ) 1882~1932
空腹のときは何を見ても食べ物に見えてしまう。恋をしているときは何を見ても恋人に見えたり、恋に関連づけてしまう。ふるえた花が恋人の前の自分の姿のように見えたのだろうか。
切られたときの花はふるえているように見えるかもしれないが、私はいままでそのように見たことがなかった。いかなる物も事も見ている人の心情によって、受け取り方も反応も異なってくる。花のふるえを「ハッとした」と見て取るしづ子の感受性の豊かさは羨ましい。
田中五呂八がしづ子の川柳を「女史の句の本質は、悪魔的な批判と、無常観的な自然詩と、余りに人間的な恋愛詩から出来上がつている」と評した。
三笠しづ子はおよそは8年間の川柳生活に数千句の作品を遺し、女心を詠んだ。〈さんらんと輝く指に爪が伸び〉〈何になれとてこねられている土か〉〈神経の走る通りな声が出る〉
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