2014年2月3日月曜日

●月曜日の一句〔西村麒麟〕相子智恵

 
相子智恵







鬼やらふ闇の親しき夜なりけり  西村麒麟

作者は豆に打たれた鬼が逃げてゆく闇夜を「親しい」という。原石鼎に〈山国の闇おそろしき追儺かな〉という句があるが、このように闇を恐ろしく感じることはない。

さらに言えば石鼎の句は〈山国の闇〉で、明らかに写生の句であるが、掲句はどこの闇とも限定することはなく、鬼を打ってその鬼が逃げた闇夜というだけである。つまりは打つ人間の側ではなく、逃げる鬼の側に親しみを持っているということになろう。

〈へうたんの中へ再び帰らんと〉〈黄金の寒鯉がまたやる気なし〉〈夕べからぽろぽろ泣くよ鶯笛〉などの句にも見られるが、作者の句を読んでいると「俳句を作る」という気負いはなく、「俳句の中に住んでいる」というような自然な感覚があって、俳句や歳時記の世界に住んで遊んでいるような独特の楽しさがある。

俳句の技術本などでは、あまり成功しないとされるゆるい副詞の多さも、写生という観点からは確かにそうかもしれないが、作者のような句が一冊に纏まると、その世界の独特の楽しさに寄与していることがわかる。読んでいるうちにどことなく心が伸びやかになる句集である。

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