樋口由紀子
街枯れて切絵の魚が眠らない
大島洋 (おおしま・ひろし) 1935~1996
「街枯れて」の隠喩、「切絵の魚」の独特の言葉、まるで鮮明な絵を見ているようである。「街枯れて」とはどんな街なのだろうか。街は人々が居てこそ、動いていてこそ、街である。その街が枯れている。人も動物もなにもいない。それは過去のことなのか、それとも未来のことなのか。「切絵の魚」はその街を知っている。だから眠らない。切絵の魚はきっと目を開いたままだろう。
掲句は大島41歳の時の作。川柳人として絶頂期に在り、技巧的な作品を次々に発表し、数々の賞を総なめしていた。しかし、晩年は〈犬は犬で不幸と思っている その眼〉〈墓掘りが二、三人あすは四、五人〉〈トンネルに列車が入るそれだけの風景〉などの装飾を脱ぎ捨てた、やさしい句を書いた。大島洋は一貫して川柳の現代性を問い続けた。著書に『川柳のレトリック』。『人間寒流』(昭和56年刊)所収。
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