2014年4月2日水曜日

●水曜日の一句〔都築まとむ〕関悦史



関悦史








立て掛けて月下の回覧板となる   都築まとむ

昼は多忙であったのか、夜、回覧板を回す。頼める同居の家族もいないのかもしれない。郵便受が小さいようで、玄関先に立て掛ける。

途端にそれは「月下の回覧板」となり、建築物、それも古代ギリシャの廃墟か何かに通じるような、小規模ながらも端正で抽象的な構築美をまとうこととなる。

立て掛けた当人以外に見る者もない一場の急変は、詩の発生の瞬間そのものだ。

日常の些事、何の気なしの動作の延長に、詩性が不意に現れ、それが普段気づかれない通風孔のひとつを探り当てたようで、月下の結晶感とともに、或る安らかさを感じさせる。

「立て掛けて」がこの際絶妙の姿勢。垂直にひとり屹立するでもなく、寝そべって存在感を失うでもなく、世界との関わりを持つ姿勢である。

日々の暮らしの至るところに、美と安らぎに通じる回路は気づかれることもなく、現れては消え、消えては現れしているのではないか。回覧板にも、立て掛けた当人にも。


句集『塩辛色』(2014.4 マルコボ.コム)所収。

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