樋口由紀子
荒縄をほぐすと藁のあたたかさ
後藤柳充 (ごとう・りゅういん) 1929~1982
荒縄は藁でできている。確かにそうである。知っているはずなのに気づかないでいた。荒縄は固く縛るから、きついイメージがある。それに比べて藁はやわらかい、やさしいイメージがある。荒縄で想像するものと藁で想像するもの、それぞれの印象も質感も異なる。
理屈の句である。が、理屈では終わらないものを多分に含んでいる。川柳は箴言とすれすれのあたりを文芸にしてしまう特技がある。それにしても「ほぐす」っていい言葉である。ほぐされると本来の藁のあたたかさが出てくる。人もしかりだろう。人間も、思想も、出来事も、凝り固まらずに、もっともっと「ほぐす」と住みやすい、あたたかい社会になるのにと掲句を読んで思った。ほぐされて荒縄自身が一番ほっとしただろう。「あたたかさ」もいい言葉。遺句集『餘香(よこう)』(昭和59年刊)所収。
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