樋口由紀子
振り乱すためには髪をながながと
山内令南 (やまうち・れいなん) 1958~2011
山内令南は小説『癌だましい』で2011年4月に文学界新人賞の受賞し、直後の2011年5月19日に52歳で病死した。2013年12月に遺稿集『夢の誕生日』が出版された。
私の知っている山内令南は、斧田千晴(おのだ・ちはる)として川柳活動をしていた頃で、彼女の髪は肩まであり、いつも後ろで一つに束ねていた。束ねた髪をほどいたところを見たことがないが、振り乱すことがあるのかもしれないと思わせるものがあった。髪は振り乱すためのものではない。「ためには」が痛々しい。
二人で大阪でうどんを食べているときに、なんて穏やかな顔の人だろうと思った。が、食べ終わるといつものきりりとした表情に戻った。きりりとせずにはおれないものを抱えていた。いや、彼女自身はそれを離せなかったのではないか。それが彼女の生きるということだったような気がする。
私の父が亡くなったときに実家に電話をもらったのが、彼女との最後の会話だった。僧侶であり看護師であった彼女は死に敏感だった。〈魚開いてわたしの胸に深い傷〉〈集まって絶叫せんか鈴虫よ〉 『夢の誕生日』(あざみエージェント刊 2013年)所収。
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