相子智恵
鯖雲や犬の興味は他の犬 長嶋 有
句集『春のお辞儀』(2014.4 ふらんす堂)より。
脱力して、ふっと笑ってしまう句だ。犬が興味あるのは他の犬……そりゃそうだろうなぁ、と思う。たとえば犬を飼うとき、人間は飼い犬に対して深い愛情を注ぎ、犬も自分に対して何よりも興味を持ってくれているだろうと信じたいけれど、犬にとって一番の興味は、人間ではなくやっぱり〈他の犬〉なのだ。
高い空にあるモコモコとした〈鯖雲〉が長閑で、私は飼い犬を散歩している秋の昼下がりの風景を想像した。犬は散歩中に他の犬と出あい、興味を持って尻を嗅ぎあったりしているのだろう(吠えあうには鯖雲が暢気すぎるので、尻を嗅ぎあうくらいの友好的な興味の持ち方ではないかと思う)。
個別の犬の描写ではなく、犬一般のこととして、漠然と定義付けをしているゆるさが、茫洋と広がる鯖雲とよく響きあっていて、心地よい脱力感を誘うのである。
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